『深海のYrr』

海洋SFの傑作です。私はそう断言します。

『深海のYrr』

海洋科学/生物学を中心に、とにかく物凄い量の情報が詰まっています。作者(準備に4年かけたとか..)の勉強量は凄い!後書きによれば本書に登場した”ディープフライト”や深海作業用のエクソスーツは、既に実用化されているそうで、そのことに吃驚。後者なんざパワード・スーツ並みのテクノロジーじゃんよ!

科学の暴走(主として資本主義社会における)批判や、生態学における人間の位置(=人間の価値は他の生き物と代わりないし、時にそれ以下である)に関する論考などが、確かにマイケル・クライトンしてますね。私も同意見なので読んでいて楽しい。それでも充分なのに、更に比較的水準の高い(と思われる)人間ドラマも充実。主人公?ヨハンソンの価値観や振る舞いはなんか高踏過ぎて(笑)共感できませんけど、副主人公にしてクジラ研究家のレオンと環境保護家ジャックの友情/成長物語には、かなり惹かれました。こいつらの仲がそこまでになるとは、登場時にはとても思えませんでしたよ。

物語の本質であるYrr(イール)は..確たる結論や対応を導き出さずに終末を迎えるという話のつくりには感心させられます。安易でなくてよい。

海洋ものとしては日本では梅原克文氏の「ソリトンの悪魔」があり、あっちではある意味容易に理解したり和解したりしてますが(笑 エンターティメントとしてあっちはあっちでそれでよい)、こっちは全然ですね(笑)

というわけで全編実に読み応えのある、充実した読書を楽しめました。

…敢えて難を述べるならば、とてつもない時間スケールの中で存在しているYrrのすることなのだから、その災害はもっとずっと!長時間のスパンの中で起こる方がリアルだったのではないかな、とは思いました。でもそれじゃ物語が作れないしね。

最後に。訳者さんはこういうSFとかを扱っていたっぽくない感じですが、実に訳が上手い!この方もかなり!勉強を積んだのではないでしょうか?お疲れ様でしたー。